尊敬する先輩について

あなたには目標としたり師と仰ぐ上司や先輩がいるだろうか。

もちろん僕にも尊敬できる人は多くいるけど、尊敬できるからといってその人になりたいとか憧れることにはならない。

僕にはそういう人がいないなあと長らく思っていたんだけど、いた。
この人は間違いなくそうだ。新卒で入った会社の先輩だ。

先輩はハードワーカーで、ムードメーカーで、ガチ体育系出身で、ヘビースモーカーだった。
それぞれの要素を取ってみてもそれほど憧れないけど、先輩は憧れだった。

ふつうキャリアとか職種とかを考えたときの仕事っぷりを尊敬したり手本にするものだと思うけど、先輩のキャリアには憧れないし、そうなりたいとも思わない。 僕が憧れたのは先輩の生き様だった。
先輩の何がそんなに良いのかうまくは説明できないので、個々のエピソードを綴る。


  • 初日

僕が入社した初日、デスクには額に肉とか口ヒゲとか小学生みたいな落書きをされた女優のうちわが置かれていた。
「これ入社祝いね」と言われた。

僕は社会人になって2年半、3社目の今でもそのうちわを使っている。
なかなか丈夫だ。


  • 風俗

先輩は給料が入ると毎月風俗に行っていた。
給料日じゃなくても「ア〜〜〜風俗行きて〜〜〜」と仕事しながら呟いていた。

「昨日のこの子がマジで最高だったんだよ」とホームページを指差して教えてきたりもした。
「彼女はめんどくせえし風俗最高っしょ」という姿勢にオス的な強さを感じた。


  • 彼女

彼女ではなかったかもしれないけど、「キャバ嬢と同棲するかもしれねえ」と言っていた。
店に通って口説いてよく家に泊まりに来る仲になったそうだ。すごい。

しばらくして「どうなったんですか?」と聞いたら「あいつの部屋の汚し方がマジでひでえからブチギレて追い出した」とのことだった。
先輩は潔癖なほどの綺麗好きでもあった。


  • 麻布

先輩は麻布の風呂なしアパートに住んでいた。
別に麻布は会社から近くはないし、風呂なしアパートに住むぐらい余裕がないなら他の街に住めばいいのに。

それでもわざわざ麻布に住むのが先輩だった。


  • ブログ

先輩はブログを書いていた。

先輩の好きな趣味のことや日常の素朴な疑問を取材してネタにしていた。
ブロガー同士の繋がりを嫌い1人で研究しながら All About のアクセス上位を取るなど結果を出していた。


  • 親孝行

先輩は毎月給料から数万円を親に渡しているらしかった。

給料日に父親からからの電話に出たあと「今日仕事終わり会いに来るって。ヤクザだよなまったく」と笑っていた。
給料日に限らずしょっちゅう食事に行っているようだったし、両親のことを楽しそうに語ることも多く、かなり仲が良さそうだった。


  • 髪型

先輩は髪を切る度に毎回違う髪型にしていた。

ある時はターミネーター2のジョン・コナーみたいな髪型で、
ある時は長い髪を後ろで結んでチョンマゲを作っていた。

学生時代からずっと変えていると言っていた。
毎回同じなんてもったいないだろとかそんな理由だった気がするけど、忘れた。


  • スカッシュ

先輩はいきなりスカッシュに通い出した。
「全国3位の人がコーチなんだ!これで俺もオリンピック目指すぜ!」と言って、会社にラケットを持ってきていた。


  • 彼女2

やはり先輩はモテる。
僕もいた飲み会で先輩は先輩を気に入った女の子を持ち帰り、そのままその子と付き合った。

その子と言いつつその女の人は先輩よりも歳上だった。
「まあ、向こうは良い歳だから向こうが望むなら結婚するつもりだよ」と語っていた。

しかしその人との関係も短い間に終わってしまったようだった。
詳しいことは知らない。



もっといろいろあるけど、量が多いのでこれぐらいにしておく。
(特に仕事での調整や凄まじいハッタリスキルでずいぶん守ってもらった)


気付けば僕は最後に会った先輩の歳になっていた。
僕はエンジニアとしていろいろな経験をさせてもらっている自負があるし、当時の先輩と比べ単純な技術力では特別劣っているとは思わない。

しかし、当時の先輩をまるで超えられない。

これからいくら技術を身につけたとしても、仕事ができるようになったとしても、人間として先輩を超えられる気がしない。
絶望的なほどに高い壁がある。

いつも全力でかっこつける先輩は、単純に、かっこよかった。

最近、ドラマ『火花』を観た。
先輩のかっこよさは神谷に似ている。

会社を辞めてから連絡さえ取っていないけれど、先輩の伝記を書いてみるのはいいかもな、と思った。

火花 (文春文庫)

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